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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

針箱はこの部屋にあるはずなのに――俺のチョッキにピストル入れを縫いつけてくれたときは、この部屋に針箱があったのに……。

「女を、あんなにいじめちゃ可哀そうだ」

照子が去ると、俺は改めて抗議した。

「照ちゃんを――いや、照子さんを、あんなひどい目に会わせるなんて……」

「照ちゃんでいいだろう」

矢萩は皮肉な笑いを浮べた。俺は固い表情で、

「照子さんはあんたのことを、かげでは、とてもほめてるのに」

「生意気な……」

「庇ってると言ったほうがいい」

「それは自分の面子からだろう」

「惨めと思われたくない……?」

「女にだって面子はあらあ」

「その面子を、あんたは俺の前で……」

「お前さんの前だからだ」

沙発に腰かけた矢萩は、膝を小刻みに動かしている。いやな貧乏ゆすりだ。俺はその矢萩に言った。

「照子さんは俺の前では、ひどくあんたの顔を立てている。猪沢市太郎を殺したのはオモテ(世間)じゃ、あんただとなってるが、照子さんはそれをマンパチ(うそ)だと……」

「当り前だ、そんなこと」

「朝倉を殺したのも、あんたじゃないと言っている」

「加柴四郎はヤケに照子を庇うじゃないか」

「照子さんから聞いた事実を俺は言ってるだけさ」