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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
と俺に言っていた。「重大な会話」と俺が説明したのはこのことである。重大なとは、もったい振った言い方のようだけど、丸万がコムミュニストになったというのは、俺には実に重大なのである。
そのとき、俺は丸万から砂馬の家の場所も聞いた。俺が初めて照子のバーへ行こうとしたときのことだ。
そうだ、俺が照子の部屋で矢萩を殺したあと、照子とかわした会話を俺は省いてしまった。意識的に省いたのでなく、うっかり飛ばしてしまったのだ。
俺としたことが、いささかあがっている。連続殺人の思い出が俺をいささか――どころか、すっかり混乱させているようだ。
ずいぶん昔のことだが、何しろすさまじい異常な思い出だ。思い出にしたって、俺の心を混乱させるのに充分な異常さだ。と言うより、この思い出の場合は、むしろ思い出のほうが、なまなましい現実感を持っている。異常のなかに実際に身を置いたときよりも、それを思い出している今のほうが、ずっとすさまじい現実感が俺に迫ってくる。
言いかえると、思い出のなかに現実がある。そのほうに、そのほうだけに現実がある。
すさまじい現実のなかにいながら、昔の俺は、それをすさまじい現実と感じなかった。