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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

だが、輝子のボテレンを見たのは、たしかにショックだった。

(近く生れてくる子も、父の砂馬が今殺されるんでは可哀そうだな。近く生れる子を見ないで死ぬんでは、砂馬も可哀そうだな)

俺はそう呟いて、いやいや、今夜というのを延ばしただけだと俺は俺の仏心を押しつぶした。今夜はカンベンしてやろう。今夜だけ見のがしてやる。

宿屋に帰った俺は、その夜、まるで死んだみたいに寝たもんだ。照子から「河向う」に隠れてろと言われた俺が、宿屋で寝るとは大胆不敵――でも俺自身は大胆不敵ともなんとも思っちゃいなかった。俺はすごく疲れて、どこでもいいからこんこんとセブリ(眠り)たかったのだ。豚のごとくに寝たのである。

翌朝、俺は風巻をその社に訪ねた。ビルの一室である。風巻はまだ社に出ていなかったが、もうすぐ来るはずだと言うので、衝立で仕切られた応接間で待つことにした。

丸万がつかまった真相を、新聞社を通して聞いてみたかった。できたら丸万を助ける方法が何かないか、風巻に相談してみたいと思った。子供ができたと喜んでいた丸万……。

内地から送られてきた新聞がテーブルの上にあった。なつかしい内地の新聞だが、そのときの俺は別に、見る気がしなかった。