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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
そのこと耳打ちしようかとも思ったんだけどね」
「クララはどこへ行ったんだ」
「そんなこと知らないよ」
俺は眼の前がふたたび真暗になるのを覚えた。
「畜生!」
扉の上に色ガラスがはめてある。俺は拳を固めて、そのガラスを叩き割った。
富江が悲鳴をあげた。婆あが奥から飛んできて、俺に悪態をついたが、俺の耳にははいらなかった。
血のしたたる拳を見て、俺は、はっと我に返ったおもいで、のっそりと外へ出ると、婆あがついてきて、ガラスの弁償をしろと、うるさく言いつのった。うるせえ! と俺は、まつわりつく婆あを払いのけた。婆あはよろめいて、
「おーい、みんな――若い衆、来ておくれ」
と喚いた。するとたちまち、朝だというのにどこからか、若い男がばらばらと集まってきて、
「この野郎」
と、ひとりが俺の胸倉を取った。俺はそいつに、血だらけの拳でメリケンを食わせた。と同時に俺は、自分のみぞおちに、ほかの若い男からの強い一撃を食っていた。瞬間、息がとまって、かがみこんだ俺の上に、鉄拳の雨が降ってきた。
「このシマで、へんな真似をしやがったら、承知しねえぞ」
そういった罵りを浴びせられつつ、俺は寄ってたかって殴られ、蹴られ、踏んづけられて、半死半生の目に会わされたのである。