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いちしょうにんとして
一商人として
相馬 愛蔵
――所信と体験――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页
いたほどであった。
しかし後になって考えると、この銀時計を彼にのみ与えたことは私の大きな過失であった。フランスパンの製造のことでは皆が苦労したのであったのに、長束が成功して彼だけが称揚され銀時計をもらった。長束はうまいことをした、我々も苦心においては長束に劣らなかったつもりであるのに、主人は苦心を見てくれない。いったい主人はふだんから長束に目をかけていたようだ、我々は骨折り損だという気がして、店員全体にその後しばらく面白くない空気を醸した。なるほどと私は考えた。一つの商店は一家である。店主は店員の親であって、店員たちは店主の子であるとともに、古参新参のへだてなく、みな仲の好い兄弟でなくてはならない。兄弟は喜びも悲しみも共にすべきであって、そのうちの一人が優れていたからといって、親はそこに差別待遇をしてはならぬのであった。長束の手柄を褒めて一般店員の奮起を促そうとした私の態度は、長束には感謝されても、他の店員には気の毒なことをしたのであった。これは彼らが不満を抱くのは無理もない、たしかに自分が不明であったと、私は心ひそかに愧じたのであった。
私はこの失敗に気づいて以来、どんなことがあっても大勢の中の一人二人だけを褒めるということはしなくなった。