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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

様子。

猪之やなんにもありはしないわ、夢を見たのじゃ、さあ寒いに風邪をひいてはなりませぬ、床にはいって寝て居るがよい、と引き倒すようにして横にならせ、掻巻かけて隙間なきよう上から押しつけやる母の顔を見ながら眼をぱっちり、ああ怖かった、今よその怖い人が。おゝおゝ、どうかしましたか。大きな、大きな鉄槌で、黙って坐って居る父様の、頭を打って幾つも打って、頭が半分砕れたので坊は大変びっくりした。ええ鶴亀鶴亀、厭なこと、延喜でもないことを云う、と眉を皺むる折も折、戸外を通る納豆売りの戦え声に覚えある奴が、ちェッ忌々しい草鞋が切れた、と打ち独語きて行き過ぐるに女房ますます気色を悪しくし、台所に出て釜の下を焚きつくれば思うごとく燃えざる薪も腹立たしく、引窓の滑りよく明かぬも今さらのように焦れったく、ああ何となく厭な日と思うも心からぞとは知りながら、なお気になることのみ気にすればにや多けれど、また云い出さば笑われんと自分で呵って平日よりは笑顔をつくり言葉にも活気をもたせ、いきいきとして夫をあしらい子をあしらえど、根がわざとせし偽飾なればかえって笑いの尻声が憂愁の響きを遺して去る