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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

神谷は不審に耐えなかったけれど、明智のするどい眼が、しきりに催促しているものだから、聞き返すわけにもいかず、いわれるままに受話器を取って、大都劇場にそのことを問い合わせた。

「わかりましたか。では、そこへあなたから電話をかけて、熊井君なり熊井君の母親なりを呼出してみてください」

「ご用がおありなのですか」

「ええ、用事があるのです」

明智はすましこんでいる。

神谷は仕方なく、今聞いた柳屋という酒屋へ電話をつないで、熊井のうちへ走ってもらうように頼んだ。

「モシモシ、熊井さんでございますか。あの柔道をなさる熊井さんですね。あのかたは、きょうお昼すぎ、急にお引越しなさいましたよ」

「えっ、引越したって? それ、ほんとうですか」

「ええ、うそなんか言いませんよ。なんだかひどく急なお話でしてね。箪笥だとか台所のものなんか、大抵古道具屋にお払いになった様子ですよ」

「で、国へ帰ったというのだね。あの人の国はどちらだったかしら」

「さあ、それはよく存じませんでしたが」

というようなことで電話が切れた。

神谷青年は、まったく度胆を抜かれてしまった。明智が稀代の名探偵であることは聞いていた。