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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
獣人対獣人
キイ、キイ、といやな音を立てて、一本ずつ釘がゆるむにつれて、蓋の一方が持ち上がって行く。そして、その隙間から、蔭になった箱の内部が、徐々に暴露されてくるのだ。
その棺桶の中に、一体どんなものがはいっていたか、神谷青年がそれを見て、どのように驚いたか。いや、彼が驚いたのはそればかりではなかった。その夜、明智の事務所には、次々と実に異様なことが起こったのだ。神谷はまるで狐にでもつままれたように、あっけにとられて、名探偵の演出する奇妙なお芝居に見とれているほかはなかった。
獣人対獣人
それから一時間ほど後のこと、明智探偵事務所の門前に、一台の空き自動車がとまったかと思うと、門内の闇の中から、誰かが急ぎ足に歩いてきて、ドアをひらいて待っている運転手に助けられ、無言のまま車内にはいった。運転手が大急ぎで自席に帰って、パッと車内燈を点じる。そのおぼろげな光に照らし出されたのは、見覚えのある洋装、明智夫人文代さんであった。彼女はクッションの隅に身を隠すようにして、なぜかじっとうなだれている。
この物騒な折も折、もう八時を過ぎた今時分、彼女は一体どんな急用が起こったというのであろう。