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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
恐ろしき猛獣団長
僕はそれをちっとも吸い込みはしなかった。ところが、先生は煙草に餓えていて矢鱈に吸い込んだのですからね。たちまちこの有様です。もう踏んでも蹴っても眼をさますことじゃありませんよ」
「ああ、そうでしたか」
神谷は名探偵の用意に感嘆して、
「ですが、この縄をどうして」
と、まだ不審顔。
明智は「あれ」と眼で教えておいて、いきなり腹這いになると、さいぜん男が彼のポケットから掴み出して畳の上に置いた万能ナイフの方へにじり寄って行き、やっとのことで、それを口にくわえた。
それから、ナイフの柄を柱の角に当てて、器用にその刃をひらくと、柄の方を奥歯でしっかりと支えて、われとわが胸の縄をゴシゴシこすりはじめた。
恐ろしき猛獣団長
たちまちにして主客顛倒であった。明智は苦心して彼自身の縄を解くと、神谷青年も自由にしてやり、次には、そこにうずくまって寝込んでいる大男を、あべこべにグルグル巻きに縛り上げ、猿ぐつわさえかませてしまった。
それがすむと、明智はさいぜんから、一と眼見たくてウズウズしていた一物を、右のポケットからつまみ出した。ほかではない。きのう文代さんを見失う直前、将軍ひげいかめしいチンドン屋から受け取った、赤い広告ビラをクチャクチャに丸めたものであった。