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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

虎

道具方と鳶の者は、相手があまりに落ちつきはらっているので、無気味さに、手出しもできず立ちすくんでいた。

長いあいだ無言の睨み合いがつづいた。

「お前たち、二人っきりか」

異様に陰気な声が響いてきた。人間豹が物を言ったのだ。

「何をっ!」

鳶の者が、虚勢を張って、これも低い声で応じた。

「お前たち、おれの力を知らないのか」

薄闇の中に、牙のようなまっ白な歯が、浮き出して見えた。二つの燐光が油を注いだように、爛々と燃え立った。

怪人は、両手で空を掴むようにして、ジリジリと前へ進んできた。

「畜生っ、やっちまえ」

鳶の者は、やけくそにわめきながら、黒い影に組みついて行った。道具方もおくれてはいない、隙を見て怪物の足にからみついた。

「オーイ、早く来てくれえ、曲者をつかまえたぞお」

組みつきながら、二人は声々に、奈落の人たちの応援を求めた。

虎

人とけだものの格闘であった。無気味な咆哮と意味をなさぬわめき声が入れまじり、三つのからだが巴に乱れて、床板の上をころげまわった。

二人と一人ではあったけれど、人間はけだものの敵ではなかった。いつの間にか、恩田の鋭い爪が若者たちの頸を掴んでいた。