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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

鉄管の迷路

僕はまだもう一人のやつを探し出さなければならない」

明智はピストルをポケットにおさめながら、静かに言った。

「承知しました。いずれ課長からお礼を申し上げるでしょう。それでは僕らは急ぎますから」

一人の私服が自動車の運転台に飛び乗ると、停止していたエンジンが響きはじめた。残る人々は、人間豹をこづき廻すようにして、狭い車内へ押し込んだ。

自動車は、明智のたたずむ前を、静かに元来た道へと引っ返して行った。

鉄管の迷路

それから又一時間ほどの後、明智探偵事務所門前の、まっ暗な道路を、影のようにさまよう人物があった。

彼はさも人眼をはばかるように、軒燈を避けて、暗い塀の蔭を、足音を忍ばせながら一定の距離を行ったりきたりしている。黒い背広を着た、痩せた男だ。うっかり軒燈に近づいた折に、よく見ると、そいつはあの醜悪な人間豹の顔とそっくりであった。むろん明智の変装姿に違いない。だが彼は自分のうちの前を、どうしてこんなうさんくさい様子でさまよっているのであろう。

「はてな、おれの誤算だったかしら。もうやってきてもいい時分だがな。あのおやじさん、倅がいつまでも帰らなければ、心配でたまらなくなって、きっとこの辺を探しにくるに違いないのだが、この見込みははずれないつもりなんだが……」