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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

舞台裏の怪異

早く、仮面を取ってください」

神谷の叫び声に、人々は急いで顔に手をやった。仮面さえはずしてしまえば、もうしめたものだ。人間豹は、この舞台の群集の中に混っているのは間違いのないことなのだから。

だが、ああ、その時、今一瞬にして怪人を発見捕縛するばかりとなったそのとき、たちまちにして、場内は、またしてもまっ暗闇となってしまった。配電室に潜んでいた恩田の味方が、危機一髪の瀬戸ぎわに、彼を救ったのである。

舞台裏の怪異

「みなさん、仮面を取ってください。曲者は見物席の中へまぎれ込んだかもしれません」

劇場の係り員が、大声でどなった。何千という見物たちの型にはめたような一様の笑い顔が、たちまち消えて行った。そして、取り去られたお面の下から、老幼男女、美醜さまざまの生地の顔が、さらけ出された。

人々はお互いに隣席の人物を、疑い深く眺め合った。あのとりすました顔をしている男が、もしや人間豹なのではあるまいか。こちらにニヤニヤ笑っているやつもなんだか怪しいぞ。誰も彼も、自分のすぐ間近に恐ろしい殺人鬼が潜んでいるように感じた。

劇場全体を、死の静寂が占領した。人々は、今にもワーッと叫んで、逃げ出したい気持で一杯になりながら、しかし逃げ出す気力さえもなく、棒立ちになったまま身動きもしないでいた。