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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

仮面時代

日頃は彼も、レビュー見物にひとしおの風情を添える思いつきとして、大いに賛意を表していたその仮面を、今は呪わないではいられなかった。

仮面時代

「レビュー仮面」。まったくそれは奇態な流行であった。

人間というやつは、昔々から、生れついた生地の顔を、人前にさらすことを、ひどくはにかむ傾向がある。日本では頭被、編笠、頭巾の類が、その時々の人間の顔を隠してきた。西洋でも、男という男がかつらをかぶった時代がある。女という女が厚い面紗をかけた時代がある。仮面舞踏会などが人々に喜ばれるのも、花見の客に眼かつらが売れるのも、同じ人間心理の現われに違いない。

その人間の弱点につけ込んで、考案されたのが「レビュー仮面」である。はじめは不良青年か何かが、気まぐれに、おもちゃのお面をかぶって、レビュー劇場の客席にはいったのがきっかけであった。一人まね、二人まね、チラホラと仮面見物が人の眼を惹くころには、機敏な商人が「レビュー仮面」と銘うって、商標登録を申請し、同一型のセルロイド面をドッと売り出したものである。

若い見物たち、殊に学生や商店員たちは、得たりかしこしと、このお面を利用し、その蔭に顔を隠して、舞台の踊子を、思う存分野次り飛ばした。