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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
熊井がやっぱり同じ手でやられなかったとはきめられませんよ。何よりおかしいのは、彼の突然の引越しです。それも、蘭子さんに奉公口を世話したその午後ですからね。第一、柔道家の青年が女中の世話をするなんていうことが、変てこじゃありませんか。あなたはそれを疑ってみなかったのですか」
飛ぶように走る自動車の中で、明智は丁寧に説明した。
そこまで聞けば、いくら混迷におちいっているといっても、明智の心配の意味を悟らないわけにはいかぬ。神谷青年はギョッとして、思わず明智の横顔を睨みつけた。
「すると、あの高梨家に、恩田の手が廻っているとでも……」
「そうですよ。行ってみなければほんとうのことはわかりませんが、脅迫状といい、熊井君の引越しといい、僕にはなんとなくそんなふうに感じられるのです。熊井君は、その高梨のお嬢さんが、不具者で、いつも顔に覆面をしていると言ったのですね。あれを聞いたとき、僕はハッとしましたよ。僕の思いすごしかもしれません。どうかそうであってくれればいいと思います。しかしそういう手は、わる賢い犯罪者などがよく用いるものですからね。僕はかつてそれと同じ手口を見たことがあるのです」