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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

神谷が尋ねると、探偵は落ちつき払って答えた。

「突きとめるまでもありません。先方からやってきますよ。僕はそれを待っているのです」

「いつですか」

「たぶん今夜。もうその辺をうろついているかもしれませんよ。ほら、お聞きなさい。僕のうちの犬がひどく吠えているじゃありませんか」

いつの間にか日が暮れて、窓のそとはまっ暗になっていた。その辺一帯は屋敷町で、どこからか洩れてくるピアノの音のほかには、ひっそりと静まり返った淋しさである。そのうちに、けたたましい犬の鳴き声、それがたちまち近づいてくると思う間に、まるで弾丸のように応接室へ飛び込んできたものがある。

「まあ、S、お前どうしたの!」

たくましい愛犬を抱きとめた文代さんの両手は、ベットリと恐ろしい血潮であった。

Sは女主人の腕の中で、一と声異常な鳴き声を立てたかと思うと、そのままグッタリとなってしまった。したたる血潮がたちまちジュウタンをまっ赤に染めて行く。

「いったいどうしたんでしょう。この傷は?」

文代さんが少し青ざめて、意味ありげに明智探偵の顔を見つめる。

いかにも異様な傷であった。背中一面、点々とむしり取ったようになって、頸筋の一とえぐりが致命傷らしく見えた。