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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
おれは夢でも見ているのかしら。いや、そうではない。夢なんかじゃない。すると、あの棺桶の中には、今度は誰の死骸がはいっているのだろう。
「奥さんは? 奥さんはどこにいらっしゃるのでしょう」
神谷は変な譫言みたいなことを言って、キョロキョロとあたりを見まわした。
「二階ですよ。今に降りてきますよ」
明智は無神経な返事をして、運転手のさし出す書付に判を押して、いまわしい荷物を応接間へ担ぎ込むように命じている。
「いいんですか。その箱の中、ご存じなんですか」
神谷は、今にも恐ろしいことが起こりそうに思われて、気が気ではなかった。
「ええ、知っていますとも。今お眼にかけますよ」
明智は落ちつき払っている。どうも変だ。この男はほんとうに明智探偵なのかしら。もしかしたら例の魔術でもって、いつの間にか、あのけだものが、明智に化けているのではないかしら。でなければ、こんな恐ろしい棺桶なぞを、ニヤニヤ笑いながら、うちの中へ持ち込むはずはないのだが。
明智は運転手たちが帰ってしまうと、応接室の窓々のブラインドを念入りにおろし、その上にカーテンを引いて、そとから隙見のできないようにしておいて、用意の釘抜きで木箱の蓋をひらきはじめた。