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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「君一人でかい」

力にかけては十人力の人間豹、一人と一人の争いなら、ビクともするものではない。

「いや、必ずしも僕一人ではないがね」

「それじゃあ、貴様……その辺に仲間が待ち伏せしているんだな」

俄かに恩田の形相が険悪になったかと思うと、いきなり両手をひろげて飛びかかろうとした。

「いや、そいつはいけない。正当防衛の意味でなら、僕は君を銃殺する決心でいるんだよ。手を上げたまえ」

明智の仕草がすばやかったので、相手は用意の拳銃を取り出す隙がなかった。さすがの野獣も言われるままに「お預け」みたいな恰好をしなければならなかった。だが、そうしていながらも、彼は隙もあらば飛びかかろうと、油断なく眼をくばっている。

「諸君、もう出てもよろしい。早くきてこいつを縛ってください」

明智の声に応じて、闇の木蔭から、四、五名の私服警官がバラバラと飛び出してきた。

「恩田、神妙にしろ」

そのうちのおもだった一人が、昔ふうの掛け声で、恩田の背後から組みつくと、つづく二人の警官が、捕縄さばきもあざやかに、たちまち人間豹を、身動きもできぬように縛り上げてしまった。

「それでは、こいつは諸君に預けましたよ。