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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

怪屋の怪

怪屋の怪

神谷芳雄は、その翌日から一週間、風を引いて熱を出して寝込んでしまった。怪物を尾行して夜ふけの寒い風に当たったためでもあったが、一つには、あのあやしい燐光に射られ、物の怪の魔気を感じたせいであったかもしれない。

会社を休んでしまったほどだから、むろんカフェ・アフロディテをおとずれることもできず、そのあいだに弘子の身の上にどのようなことが起こっているのか、少しも知らなかったが、やっと起きられるようになって、久し振りの弘子のえがおを楽しみに、カフェへ行ってみると、意外なことが起こっていた。

弘子は三日ほど前、銀座の資生堂まで買い物に行ってくると家を出たまま、それっきり行方不明になって、警察にも訴え、実家の方でも血眼になって探しているのだが、いまだに消息がわからないというのだ。

あの弘子が、神谷以外の男を愛して、駈け落ちをしたなどとは想像できないし、ほかに家出をしたり自殺をしたりするような原因は、少しもなかった。

彼女は誘拐されたのにちがいない。だが、銀座のまん中で、女給をさらうというような無茶なまねをする男が、今の世にあるだろうか。あまりに人間離れのした非常識ではないか。