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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

それとも警察へ電話をかけるかね。だが、おまわりさんたちが慌てふためいて、ボロ自動車を飛ばすとしても、あすこからは十分はかかるぜ。ところが、おれの方はというと、三十秒もあれば君の留守宅をおさらばできるんだ。仕事はすっかりすませてしまったからね」

(…………)

「さっきもいった通り、君の雇い人たち、チンピラ探偵の小林と女中とは、台所の板の間で、仲よく寝ているし、君の奥さんは、ほら、例の人形の箱ね、あの箱の中でスヤスヤおやすみなんだよ。表にはおれのトラックが待ち構えている。そこへ箱詰めの文代さんを積んで、おさらばしようってわけなのさ。君にはちっとばかりお気の毒だが、美しい奥さんとも今夜限り永のお別れだねえ」

(君は僕の探偵としての力を軽蔑しているようだね)

明智の声はひどく落ちつき払って、少しも困惑の調子を帯びていなかった。

「ウン、軽蔑しているよ。探偵のくせに大事の奥さんを盗まれるなんて、軽蔑してもいいと思うよ」

(ところが、そんなことはできっこないのだ。君は夢を見ているんだ。君は僕のほんとうの力を知らないのだよ)

電話の声に何かしら確信に満ちた威厳のようなものが感じられた。