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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

いきなりニューッと立ち上がって、老易者と肩を並べた。そして顔じゅうに貼りつけた腫物だらけのゴム仮面を、ベリベリとはぎ取ってしまった。仮面の下から現われたのは、まぎれもない人間豹の恐ろしい形相である。

「わしの方では明智を知っているけれど、あいつはわしの顔を見たことがないのだからね。まんまと一杯喰わせてやったよ」

老易者は無気味なしわがれ声で言いながら、大きなロイド目がねをはずした。言うまでもなく、人間豹の父親である。息子はいざり乞食に、おやじは大道易者に、そして、互いに連絡を取りながら、群衆の叢林の中に身を隠していようとは、なんという奇想天外の欺瞞手段であったろう。

「だが、この変装も長いあいだつづけてきたが、今晩限りでよさなくちゃいけまいね。あのするどい男は、今の自動車が道の半分も行かぬうちに、きっとわしたちの秘密を気づいてしまうことだろうよ」

「ウフン、だがあとの祭さ」

人間豹は吐き出すように言って、大きなあくびをした。

「お父さんもきょうはずいぶん働いてくれたね」

「ウン、麻布から、芝浦、芝浦から浅草とね、なあに、なんでもありゃしない。世間を相手に戦うのが、わしには面白くてたまらんのだからね」