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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
だが、なんて大きな犬だろう。それにあの歩きかたのしなやかさはどうだ。犬ではなくて猫みたいじゃないか。やがて、その妙なけだもののからだ一面に、まっ黒な美しい斑点のあることがわかってきた。犬じゃない。といって、あんなでっかい猫なんているはずはない。すると、すると、あいつは、いったい……
見つめていると、そのものの正体は一と息ごとに明らかになって行った。あざやかな斑紋、がっしりと太い四肢、生きているような長い尻尾、まっ青に光る両眼、もう見違いはない。豹だ。豹が野放しで歩いているのだ。
だが大山親方は、このあまりに非常識な光景を俄かに信ずることができなかった。公園の中を猛獣を連れた老人がノコノコ歩いて行くなんて、おれの眼がどうかしているのじゃあるまいか。それとも夢でも見ているのかしら。
ところが、ふと気がつくと、その豹のうしろからついて行くもう一匹のけだものは、さらに一そう驚くべき怪物であった。実に不思議千万なことには、そいつは洋服を着ていた。まっ黒な洋服を着ていたのだ。そして、前脚よりも後脚が二倍も長くて、それが普通の動物とは反対に曲がっている。しかもその脚の先には靴をはいていたではないか。