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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

眼の部分だけくり抜いてある様子だが、そのほかは顔全体がまったく隠れてしまっているではないか。まるで顔を見られまいための巧みな工夫みたいに邪推されるではないか。あのおどけた張りぼての中に隠れているものは、もしや、もしや、探しに探している「人間豹」の無気味な顔なのではあるまいか。

先方は抜け道の向こうの出口に近い場所を、ノロノロと歩いていたのだが、明智たちがこちらの角を曲がって、姿を見せたとき、そいつは振り返って、じっと彼らを見つめていたように感じられる。それからというもの、なぜか一そう歩度をゆるめながら、ほとんど一と足ごとに、さもうさんらしく、こちらを盗み見ている様子である。ただのチンドン屋が、職工と「よいとまけ」にこんなに関心を持つというのは変ではないか。あの魔物のことだ。先方ではとっくにこちらの素姓を見破って、張りぼての中で、燐光の眼を光らせて、せせら笑っているのではあるまいか。

それを確かめないでは気がすまなかった。もしこの突飛な想像が的中して、かくもやすやすと怪人「人間豹」を捕えることができたら……と考えると、日頃冷静を誇る名探偵といえども、さすがに胸躍らないではいられなかった。