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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

ちょうど外科患者が手術台やメスの棚をドキドキして盗み見るように、押入れの中の異様な箱に、そこから取り出された一物に、眼を注がないではいられなかった。

人間豹が魔術師のようなゼスチュアで箱の中から引きずり出したものは、ひどく嵩張った黒くてグニャグニャした、何かしらゾッとするようなものであった。

はじめのうちは、薄暗い押入れの中で、その正体を見届けることができなかったけれど、やがて、それがズルズルと明るみに持ち出されるに従って、そのものに顔のあることがわかってきた。尖ったまっ黒な顔だ、キラキラ光る眼、ガックリひらいたまっ赤な口、ニョキと覗いた大きな牙、そして、深々として黒い毛むくじゃらの胴体、するどい爪のはえた四本の足。

熊だ。人間豹が熊を掴み出したのだ。しかし、あんなにグニャグニャしている様子では、生きてはいない。では熊の死骸なのか。いやいや、死骸にしてはお腹がひどくペチャンコだ。すると剥製の毛皮なのかしら。だが、どこやら毛皮とも違うところがある。毛皮ならああまで生きものの感じが残っているはずはない。

「ヘヘヘヘヘ、怖がることはない。まだ喰いつきやしないよ」