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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
わしにせよ倅にせよ、そんな悪者ではありません。いったい何を証拠に、そんな言いがかりをなさるのじゃ」
老人は底光りのする大きな眼で、睨みつけながら、きめつけた。
「証拠が見たいとおっしゃるのですか。証拠はこれです。今、お宅の中から塀のそとへ、これを投げたものがあるのです」
神谷は言いながら、さいぜんの血染めのハンカチを取り出して、老人の眼の前にひろげて見せた。
老人はそれを読みとると、さすがにギョッとした様子であったが、なにげなく笑い出して、
「アハハハハハ、これを家から投げましたと? あんたは夢でも見たのじゃないか。この家には倅とわし二人きりで、その倅が外出しているのじゃから、今はわしがたった一人です。わしがこんなものを投げるはずもなし……」
「では、これをごらんなさい。あなたの息子さんが弘子さんという女給にやった指環です。これも見覚えがないとおっしゃるつもりですか」
老人は指環を見ると、一そうギョッとしたようにみえた。白髯にうずまった息子と同じようにドス黒い顔が、サッと赤らんだかと思われた。だが、彼はあくまでも白を切って、
「知らんよ。わしゃ、そんなもの……だがね、お前さんが、そんなに疑うなら、一つ家探しをしてみたらどうじゃ。