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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
青物を並べた店先に、近所のおかみさんらしいのが三、四人買い物をしている。ふと気がつくと、その中の一人が妙なことをしゃべっていた。
「それが変なのよ、あんた。まるで顔も姿も見せないんですもの。あたしの所から三度の御飯を運んで行くでしょう。それをね、だまって台所の障子をあけて、板の間へ置いて帰るのよ。そうしてくれっていう固い約束なのさ。しばらくしてお膳を取りに行くでしょう。すると綺麗に中身がなくなって、空のお櫃とお膳とが、ちゃんと元の場所に出してあるのよ」
「まあ、いやだわねえ。そして、お前さん、その人を見たことがあるのかい」
「それがないんだよ。最初引越してきた人は、まあ立派な紳士だったんだけれどもね。どうもその人じゃないらしいの」
「へええ、なんだか気味がわるいみたいな話だわね。でも、あんた、どうして人が違うってことわかって?」
「手を見たのよ。顔は見ないけど手だけを見たのよ」
「手がどうしたっていうの?」
「けさね、あいたお膳を取りに行って、障子をあけるとね、少しあたしの行き方が早かったのさ、ちょうど御飯がすんだところと見えて、茶の間とのあいだの障子が細目にあいて、そこから空のお膳を板の間へ出している二本の手が見えたんだよ。