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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
その手がね、あたしのあけた障子の音にびっくりして、サッと引っ込んだかと思うと、いきなりピシャッと茶の間の障子をしめて、ガタピシ二階へ逃げて行く足音がしたんだよ」
「まあ、よっぽど人眼を忍んでいるのねえ。でも、その手だけを見て人違いとわかったの?」
「ええ、あたしゃ、あんな気味のわるい手は見たことがないわ。薄黒くって毛むくじゃらで、いやに筋張っていて、指が長くって、指の先にはまっ黒になった爪が三分も伸びているのさ。最初あの家を借りた紳士は、決してそんな人柄じゃなかったのよ」
「いやねえ。じゃあその人、家にとじこもってて、そとへ出ないんだわね」
「ところが、時々はそとへ出るらしいのよ。それもこっそり出掛けるとみえて、ついぞ見かけたことはないんだけれど、でも、出掛けている証拠には、いつの間にか二人になっているんだものね。どっかから女でも引っ張り込んだらしいのよ。そして、おかしいじゃないか。おひるのお膳の上に手紙がのっかっているのさ。晩から二人分持ってきてくださいって」
「あんた、それをほうっておくつもり?」
聞き手のおかみさんが、声をひそめて、まじめな顔になって尋ねた。