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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

これぞ猛獣団長大山ヘンリー氏その人である。

彼は猛獣用の鞭を両手にもてあそびながら、将軍ひげにふさわしいもったいぶった口調で、しきりと前口上を述べ立てている。

「……さて、いよいよあれなる二つの檻を、ピッタリと密着いたし、あいだの扉をひらきまして、虎と熊とを一つにいたしまする」

彼が鞭で指さす舞台後方には、車のついた二つの檻が、奥深く、薄暗く見えて、その一方の檻には、さも精悍な一匹の虎が、狭い鉄棒のあいだを、ノソリノソリ、往ったり来たりしながら、時々「ウオー」とすさまじい咆哮を発している。もう一つの檻の中には、虎に比べて二倍もあるような黒い大熊が、これはまあなんといくじのないことか、さもさも相手が怖くてたまらないという恰好で、隅っこの方に身をすくめ、すっかりおびえきっているようすだ。

「……熊は臆病者でござりまする。だが、観客諸君、決してご心配には及びません。ああ見えましても、いざ敵の襲撃を受けますると、彼はたちまちその本性をあらわし、猛然と立ち上がるのでござります。熊はおそらく最初まず張りの一と手を用いるでありましょう。しかして虎は低く喰い下がって、そのするどい牙と爪を存分に揮うでありましょう。