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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

さてしばらく揉み合いまするうちに、猛獣のいずれかが傷つくは必定、さあ、一たん血を見ますると、肉に餓えたる彼らは、俄然としてその兇暴性を増しきたり、ついには敵の喉笛を、バリバリと喰い裂かずしてはやまぬのでござりまする」

将軍ひげの猛獣使いは、そこでちょっと言葉を切って、彼の弁舌の効果を確かめるように、静かに場内を見まわした。

「観客諸君、皆さんは実に果報者でいらせられまするぞ。一頭一万円もしまする猛獣が、傷つき、倒れ、皮を破られ、肉を食い裂かれ、骨となるまでの、身の毛もよだつ光景を、今まざまざとごらんなさるのでござります。いやいや観客各位、そればかりではありませんぞ。猛獣は泣き叫ぶのです。狂乱して逃げまどうのです。ああ、まるで、それは人間のように、か弱い美しい女のように、助けを求めて泣きわめくのです。皆さんの前に、どんなむごたらしい光景が展開いたしますことやら。凄絶、惨絶、奇絶、怪絶、おそらくは観客諸君の夢にも想像されぬところでござりましょう」

ひげの猛獣使いは、何かしらわけのわからぬことを口走った。ただ観客を怖がらせるための誇張にすぎないのであろうか。