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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
だが、運転手はまだ若いすばしっこそうな男だった。
「速力の規定なんか無視しても構わん。僕は警察関係のものだ。決して面倒はかけない」
「だって、市内ではいくら飛ばそうたって、先がつかえてまさあ」
運転手はもうスピードを出しながら、どなり返す。
「よし、それじゃ、懸賞つきだ。前の自動車を一台抜くたびに十円だ」
「十円? 心得たっ。だが、旦那、何十台抜くかわかりませんぜ。あとで冗談だなんて言いっこなしだぜ」
たちまち車は矢のように飛んだ。
道行く人々が急流のように後方に流れ去る。ああ、一台又一台、電車も、自動車も、トラックも、すれ違ってはあとに残されて行く。十字路の信号燈を無視したことも一度や二度ではなかった。
「コラ、待てっ!」
大手をひろげてどなっているおまわりさんのまっ赤な顔が、しかし、みるみる小さく小さく遠ざかって行く。
舞台では一つになった檻の中で、二匹の猛獣の睨み合いがつづいていた。睨み合いといっても、熊の方はさいぜんの姿勢のまま、首を垂れてじっとうずくまったまま、死んだように動かない。それに反して精悍な猛虎は、長い尾をクルックルッと表情たっぷりに廻転させながら、首を低く、身を縮めて、襲撃の前奏曲、低い唸り声をゴロゴロと鳴らしている。