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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「熊あ、熊あ、しっかりしろっ!」
へんてこなかけ声が客席の一隅に起こった。
「虎公、やっつけろ。ほらっ、飛びかかれっ」
また別の声援が、突拍子もない声で響きわたった。
だが、猛獣はなかなかおだてに乗らず、睨み合いをつづけたまま動かない。ただ、徐々に徐々に、猛虎の唸り声が高まって行くのが感じられた。
たまりかねた観客席から、ついに怒濤のような喊声が湧き起こった。
「やれ、やれえ……」
「やっつけろい……」
「ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ……」
猛獣よりも先に、見物が昂奮してしまった。大テントの下は、今や汗みどろの激情のルツボであった。
満を持して動かなかった猛虎も、この騒擾に刺戟されないではいられなかった。彼は一刹那、弓のように身を縮めたかと思うと、たちまち一発の巨大な弾丸となって、熊を目がけて飛びかかっていった。
「ワーッ……」
と上がる喊声、見物席は総立ちとなった。だが、なんというあっけなさ。大熊はまったく無抵抗であった。虎の一撃にゴロリと倒されるとそのまま、四肢を上にして、仰臥してしまった。
「熊あ、しっかりしろっ」
虎は相手の無抵抗に、かえっておびえたように、又もとの位置にしりぞいて、第二の襲撃の姿勢を取り、じっと敵の動静をうかがっている。