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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
すると、その時まで、まるで眠っているか死んでいるとしか思えなかった大熊が、仰臥のままモガモガと、四肢を動かしはじめた。そして、やっとのことでまともに起き直ると、じっと虎の方を見つめていたが、ああ、これはどうしたというのだ、熊はまるで気でも違ったように檻の隙間からそとへ逃げ出そうと、みじめにもがきはじめるのであった。それと同時に、どこからか、かすかにかすかに身の毛もよだつ女の悲鳴が、客席にひろがって行った。
だが激情の見物たちは、まだその悲鳴に気づかなかった。騒擾の中で聞き取るには、あまりにもかすかな声であったから。
熊は檻のそとへ出られぬことがわかると、いきなり後足で立ち上がり、飛んだり跳ねたり、気違い踊りをはじめた。踊りながら、広くもあらぬ檻の中を、縦横無尽に駈けまわった。
そのあいだ、いぶかしい女の悲鳴は切れてはつづいていた。一と声、一と声とその悲しさを増してつづいていた。
「おい、どっかで女が泣いてるじゃねえか」
「ウン、そうよなあ、おれもさっきから不思議に思っていたんだよ」
見物席の騒擾の中に、あちらでもこちらでも、ボソボソと、そんなささやきが取りかわされた。