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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「猛獣大格闘……Z曲馬団」

ああ、それは目ざすZ曲馬団のアド・バルーンであった。あの風船の下にテント張りの見世物が興行しているのに違いない。

舞台の檻の中では、熊の皮がほとんど剥げるだけ剥げてしまっていた。まるで蜜柑の皮でもむくように、なんの造作もなく……これはまあ一体何事がはじまったのだ。

鳴りを静めた大群集は、彼ら自身の眼を疑わないではいられなかった。これは今ほんとうに起きているのかしら。それとも、何か飛んでもない幻覚を見ているのではあるまいか。こんなベラ棒な椿事が、果たして現実世界に起こり得るのであろうか。

檻の中では、そういう椿事を惹き起こした当の虎さえも、あっけにとられて、むしろ恐れをなして、一方の隅へ逃げ込んだまま、身をすくめてしまった。

ただ見る、檻の中央には、上半身がまっ白で下半身がまっ黒な、お化けのような一物が、スックと立ち上がっていた。だが、それはなんと艶めかしくも美しいお化けであったか。熊の皮の中から現われた白くてなめらかなものは、人間の皮膚であったのだ。しかも若くて美しい女の皮膚であったのだ。

乱れた髪の毛、泣き濡れた顔、胸も腕も、上半身はあますところなく露出していた。