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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

ただ猫が鼠をもてあそぶように、相手をもてあそんでいるにすぎなかったが、しかし、か弱い弘子の方では息も絶え絶えの力闘であった。

掴み合うたびごと、つき倒されるたびごと、ころがり廻るたびごとに、服も下着も引きちぎられ、今はもう身を蔽うものも残り少なくなっていた。

彼女は少しも声を立てなかった。泣き叫んでもむだなことを意識してか、それとも、恐怖と疲労のために、干からびた喉が、もう声を出す力も持たなかったのか。

この騒ぎに、檻の中の豹が、刺戟を受けないはずはなかった。野獣は恐ろしい唸り声と共に立ち上がって、檻の中を右に左に駈けまわりはじめた。そして、彼の昂奮は、二人の人間の格闘が激しくなればなるほど、異様に高まって行った。檻の鉄棒に飛びつき昇りつく狂態のすさまじさ。まっ赤にひらいた口をほとばしり出る咆哮の恐ろしさ。

弘子の白い肉体は、幾度となく、恩田のためにつき飛ばされ、或いは自ら逃げ倒れて、床の上にころがったが、最後に倒れかかったのは、偶然にも、豹の檻の扉の前であった。

彼女は、その扉の鉄棒に取りすがって、身を起こそうともがいていたが、ふと彼女の白い手が扉の掛金にかかった。