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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

怪屋の妖火

あいつだ。あいつめ、豹に僕を喰わせようとして、檻をあけやがった」

恩田が苦しい息遣いで、さも憎々しくどなった。

「ウム、そうか。してみると、この娘はお前の敵だな。いや、それよりも、大事な豹の敵だ。わしはこいつを撃ち殺すとき、どれほど悲しく思ったか、どれほど残り惜しく思ったか」

言いながら、老人は豹の死骸の前にしゃがんで、悲しみに耐えぬもののように、その背中を撫でながら、長いあいだ黙祷していたが、やがて、キッとして立ち上がると、烈しい語調で、

「よし、もうお前を止めやしない。思う存分にするがよい。わしの可愛い豹の敵討ちだ。どうともお前の思うようにするがよい」

と言い捨てて、そのまま眼界から消えて行った。

怪屋の妖火

神谷はほとんどもう気力が尽きていた。だが、彼は節穴から眼をはなすことができなかった。「嫁おどし」の老婆の顔に般若の面がくっついてしまったように、彼の顔は板壁に密着して離れなかった。

怪人恩田は、間もなく元気を回復して、舌なめずりをしながら起き上がった。うす黒い顔がひん曲がって、ゾッとするような笑いが浮かんでいる。彼はおそらく、天下晴れて、この可憐な餌食に復讐をすることができるのを、喜んでいるのだ。