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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
たではないか。あれが神谷でなかったとすると……
「そんなこと言って、あたしを怖がらせるんじゃない? ほんとうに? ほんとうにあなたではなかったの?」
いくら念を押しても、神谷の答えは変らない。
「まあ……それじゃ、あれ、いったい誰だったのでしょうか」
蘭子はふと底知れぬ恐怖にとらわれて、みるみる青ざめて行った。
はじめて見る彼女の恐怖の表情が、当然とはいえ、なき弘子のそれと生き写しであったことが、神谷をギョッとさせた。そして、自然の順序として、かつて弘子をそのような表情にまで震えおののかせたところのもの、あの人間豹の恐ろしい形相を、思い浮かべないではいられなかった。
「君は、その男の顔を見なかったの? 顔も見ないで僕ときめてしまったの?」
「ええ、でも、あなただって、お別れする時まで、ずっとお面を取らないでいらっしゃることもあるんですもの……もし少しでも疑えば、その人のお面をとってみるんだったけれど、あたし、あなたとばかり思い込んでいたもんだから……」
ああ、なんてくだらないものがはやり出したのであろう、「レビュー仮面」なんて。あんなものが流行するばっかりに、こんな間違いも起こるのだ。