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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「おや、今なんだかガサガサって音がしたじゃねえか」
「鼠だろう」
「鼠なもんか。どうやら、この辺が臭いぜ」
突然、彼らはハッと息を呑んで、眼と眼を見合わせた。ごく間近くから、「ウーン」という妙な唸り声がして、パタパタと何かを蹴りつける音が聞こえたからだ。
「オイ、見ろ、あの中が怪しいぜ」
「ウン、そうだ、用意はいいか」
「やっつけろ!」
二人の眼が、そういう意味を伝え合った。そして、呼吸が揃うと、彼らは立ち上がるや否や恐ろしい勢いで、そこにある張子の仏像へ飛びついていった。
軽い張子のお釈迦さまは、一と突きで横ざまに倒れてしまった。同時に、仏像の体内に隠れていたものが、眼の前に暴露された。
まっ黒な人影が、スックと立ち上がって、こちらを睨みつけたまま、逃げだそうともしない。その男の顔のあたりに、燐のように底光りのする二つの丸いものが、じっと動かなかった。豹の眼だ。果たして、そこには恩田が隠れていたのだ。
恩田の足元に、肌も露わになって花売娘が倒れていた。いうまでもなく、江川蘭子である。猛獣はその可憐な餌食とたった二人で、さいぜんからずっと、この仏像の体内に潜んでいたのに違いない。