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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「ウン、この広い小屋の中を、これっぽっちの人数じゃ無理だよ。もう止そうぜ。あとはお巡りさんにお任せしちまおう」
「そうだな、じゃあ、おれたちは蘭子を向こうの部屋へ連れてってやろうじゃねえか。可哀そうに、気絶して、板の間にころがったまんまだぜ」
「ああ、それがよかろう」
彼らは書き割のあいだを取って返して、グッタリとなった蘭子のからだを、両方から抱きかかえ、道具置場を出ようとした。
「おや、変なものが落ちているな。いったい誰がこんなところへ、持って来やがったんだろう」
道具方の若者が、足元の藪畳の下敷きになっている、一匹の大きな虎の縫いぐるみを発見してつぶやいた。
「こいつあ、一幕目に着て出るやつだね、縫いぐるみっていうんだろう。いつもここいらにおっぽり出してあるんじゃねえか」
鳶の者が答えた。
「いや、そうじゃねえ。これは衣裳部屋にしまってあるんだからね。こんなところへ来ているのはおかしいよ」
「今夜の騒ぎで、誰かがウッカリ持ち出したんじゃないかい」
「ウン、そんなことかもしれない」
二人はなにげなくそこを通り越して、楽屋口への暗い廊下を、エッチラオッチラ歩いて行った。