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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
すると、実に奇妙なことが起こったのだ。藪畳がガサガサと鳴ったかと思うと、今までその下敷きになっていた、虎の縫いぐるみが、ムクムク動き出したではないか。
無心の衣裳が独りで動き出すはずはない。動くからには中に人間がはいっているのだ。その辺がひどく薄暗い上に、藪畳の下になっていたので、二人の者は、縫いぐるみに中身があろうなどとは思いも及ばなかったけれど、実はその中に何物かがはいっていたのに違いない。
やがて、縫いぐるみの猛虎は、ムックリと起き上がると、遠ざかっていく二人のあとを追って、ノソノソと歩きはじめた。
本物の毛皮を使った、贅沢な縫いぐるみ。それが四つん這いになって薄暗い廊下を歩いて行く姿は、生きた虎としか見えなかった。
二人のものが元の日本間にはいって、その辺を取りかたづけ、蘭子の寝床を作っているあいだに、虎は部屋の前をソッと通りすぎて、俳優の下駄箱の並んでいる蔭に、グニャリと身を横たえた。そうしていると、ちょっと見たのでは縫いぐるみとしか思えない。
しばらくすると、楽屋口の大戸のそとに、大勢の靴音がして、何か言いながら、戸を叩きはじめた。