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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
広間の隅では佐々が機嫌よく安楽椅子に納まり、しきりに何か喋っている。
入口に近いカーテンの傍の柱によりかかり、腕を組み、先刻彼女を二階まで案内した男が、もう一人の椅子にかけた男と話していた。椅子にかけている男の膝には、場所柄になく白と黒との斑猫が一匹丸くなって抱かれていた。この男は打ち寛いだ風で、その猫の背を撫で撫で物を云っている。家庭的な光景で、彼女はいい心持がした。伸子は、隣りに坐っている中西という、おそく来た、美しい、情の籠った声で物を云うひとに、その男の名を訊こうとした。
すると、先刻の男が大柄な骨っぽい体をぎごちなく運んできて彼女のじき前にあるテーブルの横に立った。彼は、テーブルの端で埃でも払うような手付をすると、低い声で、
「今晩は――」
と開会の辞めいた挨拶をしはじめた。囲りの幾つかの顔が声の方へ振り向いた。広間じゅうのざわめきがしずまった。森とした寄木の床の上で誰かが椅子をずらせた。――改った咳払いの声がする。……
男は、伏目になったまま、平凡に多数の人々の集ったことに対する満足の意をのべ、松田博士の歓迎の言葉と紹介とを終って席についた。