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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

八

一緒に暮す以上、打ちとけなければ、ね。だから来て頂戴――O村の家でこんなことないでしょう?」

彼は、伸子に対する義務だという心持を示した声で答えた。

「では行きます」

八

極く微妙な、神経的な不調和が、だんだん家じゅうにはびこりはじめた。伸子は自分もそれを神経で感じた。

夕飯の時、彼女は元したように料理の手伝いをした。その間、佃は部屋にいる。テーブルの支度ができると、伸子は、

「みんないらっしゃい!」

と呼んだ。彼女の若々しい声は遠くまで響いた。裏庭にいた保も、和一郎も、つや子は勿論、

「御飯、御飯」

と叫んで、どたどた馳けてくる。伸子も、手を洗って食卓に就いた。父や母も箸をとるばかりになっているのに、佃一人が揃わない。つや子は、

「お母ちゃま、もう食べていい?」

と訊いた。伸子は気がもめた。そこへ、正面の戸をあけ、佃が、皆に向って軽く頭を下げながら入って来る。――時間で云えばほんの一分か二分の待ち合せであった。が、一番人目を牽きたい貴婦人は最後に、皆揃った舞踏場へ姿を現す通り、その場の気分に、何か際立つものが生じた。彼だけ変に別者――お客として目立つような、その瞬間、ああ彼がいる、ということをぼんやりではあるが、皆が新たに感じなおすことを、伸子は感じるのであった。