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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

九

四日の朝までに。――単衣にするんだから」

それは染めなおしで、裏は白く、滑稽なのだが、伸子は羽織を着るから平気と思った。

九

動坂の家へ知らせない積りが、東京へ来る汽車中、思いがけない人に会ったため変更した。素子の家の近所の自働電話で、伸子は母を呼び出した。昨夕東京に帰ったことを告げると、

「へえ……」

と、母は疑わしいような不快に亢奮の籠った声を出した。

「妙なことがあるよ――佃は赤坂にいないよ」

それはどういう意味なのか伸子には判断がつかなかった。

「私赤坂へ行かないから知らないわ」

「どこにいるんです?」

「吉見さんのところ」

「――とにかく佃は赤坂にいないよ」

多計代は、脅かすようにまたそれを繰り返した。

「Kからお前がいつ帰るかって電報を打ってよこしたよ」

持ってまわり、意味ありげな口ぶりだったので、伸子は直接法に要点にふれた。

「――汽車の中でジョンストンさんに会ったら、是非お会いしたいから明日動坂へ上りますって。私も行くから、その時いろいろ伺うわ」

母は考えていたが、きっぱり、

「今直ぐおいで」

と云った。双方の電話口で暫く無言がつづいた。伸子は、じゃあ行きますと云って電話を切った。