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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
十
さんざん歩いて彼女はやっと一人の交通巡査に会った。そして、初めて自分が電車を間違え、ブロウドウエイよりずっと東に来てしまっていたことを発見した。
ローレンス教授は日本にも来たことがあるそうで、伸子の迷児になった話にひどく同情して笑った。用件は、英文学としてとった時間のうち一部を自由作文にしたら為になるだろうという勧告であった。彼女は、そのためにミス・プラットという人のところへ紹介された。
十
ローレンス教授は、日光や鎌倉のこと、左甚五郎の眠猫が鳴くという云い伝えなどを思い出し、ローマの何とか云う寺院では、壁画の天使がその教会の檀家で死ぬ人があると枕辺に立つという伝説があるなど話した。伸子は、話の間からだんだん頭が痛んで来た。普通の頭痛とは異った、額から後頭まで箍でもはめるように緊めつけられる感じであった。時を切ってその緊めつけが強くなると、眼球を動かすのさえ辛くなった。眼球が硬くなって動かそうとすると痛い、そういう気持だ。
室内の温度が不自然に高かったから、平常健康な伸子は初めただのぼせたのだと思った。散歩して血液循環をよくしたらよかろうと思い、彼女は外に出ると日向の歩道をホテルの方に歩き出した。