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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

二

――九月七日に、動坂から赤坂まで徒歩で帰った。途中、九段まで来て、来た方を顧みた時、荒涼とした焼跡の東京が面をあげて伸子に迫った。その感動を、彼女は忘れることができなかった。

その秋、伸子は実感をもって生命の能量を知りなおした。

二

十月のある朝、飯をしまうと、佃が、

「そこいらで壁に貼る紙を買って来てくれませんか」

と云った。

赤坂の家は、地震の時ところどころの壁が落ちた。そのまま月がかわったのであった。

「素人じゃ無理でしょう、今になおしに来てよ」

「やってしまいましょう――いつ来るか分らないんだから」

伸子は、佃が指図した色の紙と糊とを通りへ出て買って来た。あぶなっかしい経師屋が始まった。畳の上に新聞紙をひろげ、伸子が糊をつけた紙をつまんで渡すと、椅子にのった佃が壁に貼りつける。午前と午からじゅうその仕事をした。伸子は常からそういう仕事はじき厭になる性分であった。

「もう今日はこれだけにして置かない?」

彼女は一二度区切りに来た時云った。佃は、先、庭へセメントの池を拵えた時もそうであったが、働きを程々でやめるということのできない人であった。やりだすと、自分も傍の人間もうんざりしきるまで頑張ってやる。