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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
後から立った者は、ほとんど皆、政治、経済、社会学、法律等が専攻であった。猫を抱いていたのは、沢田という植物学を勉強している人であった。女達も、各々抱負や目的を手短かに述べた。伸子は極りわるさからぶっきら棒にただ、「佐々伸子と申します。――よろしく」と云っただけで坐った。彼女はこれらの人々を前に置いて、自分は広い深い人間の生活を知りたいのだ、死ぬまでに一つでも、よい小説が書きたいのだ、と告白する勇気をとても持ち得なかったのであった。
親娘は、十二時少し前にホテルに帰った。
伸子が湯上りの部屋着で、昼間買って来た細工のよい銀製の封蝋道具をいじくっていると――それは欧州戦争の第五年目で、毎日処々に赤十字や戦地慰問のためのバザーがあった。伸子はその一箇処で、古風なその道具を見つけてきたのであった――寝衣に更えた佐々が来て、
「明日の朝九時に佃君が来るから覚えていておくれ」
と云った。
「佃さんて――今夜の?」
「うむ。――頼まれて来た南波の甥のことがどうも気になるがとても一人でやっていられないから、あの人にちと手伝って貰おうと思ってね」
佐々は、大まかに云った。