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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「あれを見て置いてくれた?」
「ええ」
「どう?」
伸子は、
「そうね」
と云った。
「持って来るわ、とにかく」
佃は、彼の専門に関する小著書の下拵えをしていた。通俗的な、ペルシャ文学概論であった。伸子は、丁度その目的にかなった素人読者の代表として、選ばれたのであった。伸子は、二寸ほど厚い原稿を、自分の机のひきだしから持って来た。佃は、自分の仕事に対する、親しみの現れた手つきで、ぱらぱら頁をひるがえした。
「何か苦情がある?」
伸子は、彼の気を挫く気はなかった。佃が、重い筆を働かして、それだけの仕事をしたのは、彼女も悦びと感じているのであった。
「苦情は大げさだけれど、もう少しどうにかした方がいいと思うところはあるわ」
「どこ?」
「紙が挾んでありゃあしないこと? 説明が足りないのよ、ところどころ。まるで予備知識のないものが読むと、物足りないの。それに何というか、材料の底まで、たっぷり筆が届いていないようなところがあるような気がするんだけれど……」
佃は、弁疎的に云った。
「そりゃあ、小説のようなものとは違いますよ。面白いものじゃあないにきまっている。――何しろ片手間にやる仕事だから……材料を整理するだけだって、容易じゃあない」