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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「――理窟ではない、私の本当の心持よ」
「実はね、昨夜、沢谷さんが夕飯に来て、お前の今度書いたものを読んだかと訊くから、ちっとも知らないと云うと、奥さんのことが書いてありますよ、と云うんだろう。どうせ碌なことじゃあるまいと思いながら、直ぐ買わせにやって読んで見ると――私は、なにも活字にまでして、お前に赤恥を掻かされなければならないようなことをした覚えはないよ」
伸子は不愉快になり、同情的な気分を失った。彼女は、自分の心を第三者として観る習慣のない母が、問題は、たといたった二字の形容詞にすぎないとしても、自分をあまり芳ばしくない心の状態で書かれたと思ったら、事実であれば一層いやに思うのは無理ないとさえ思った。それ故、その厭わしさとしても、伸子がその作を書いた衷心の事情が分れば、ある諒解が得られるだろうと、多くの口数を利いたのであった。けれども、母の言葉で、伸子は索寞とした気持になって来た。知識階級の青年らしくもない沢谷の態度も、いやであった。母の、それに動かされ方もいやであった。伸子は、黙りこんで冷えた茶を啜った。
「……そりゃあ私はお前の親だから、私さえ踏台になっていればお前がよくなる、とでも云うんなら、どんな目も辛抱しますよ。