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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
伸子は、次の小さな仕事に着手した。自分の精神を引締めてくれる点、この外見不幸らしいことも感謝してよい気がし、伸子はしんみりとした元気があった。彼らは、その夜以来、動坂のドの字も口に出さなかった。
月が変って直ぐのある日のことであった。伸子は思いがけず、玄関に和一郎の声をききつけた。伸子は、元気な彼の顔を見ると、思わず自分も男の子のように、
「やあ」
と、よろこびの声をあげた。
「どうした?」
「姉さんもどうした?」
「この通りよ」
和一郎は、伸子の顔や、勉強のために散らかっているあたりの様子を見廻し、
「じゃあ結構ね」
と、はじめて坐った。二人は三時間ばかり、とりとめなく愉快に雑談した。和一郎は、やっと来年の春、ある専門学校へ入る気になったと話した。
「――どんな奴だって、中学を出たばっかりにすぐ悦んで、上の学校の試験なんぞ受けるんじゃあないと思うな。第一、何が自分の好きな仕事か、大抵は分らないし、気持だって適当じゃあないもの――」
帰りがけ、向うをむいて靴をはきながら、和一郎はさりげなく云った。
「ゆうべ、お母さんが僕に、この頃ちっとも姉さんのところへ行かないようだね、っておっしゃった」