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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

開けた時の嬉しさ! 子供らしい瑞々しさは、いつも、彼女を有頂天にした。家中が彼女とともに喜んだ。その単純な楽しみを、今年は家じゅうが持てない。大晦日は滅入ったものになるだろう。伸子は、いっそ親や弟妹が東京にいなければよい、さもなければ自分達が東京にいたくないと思った。

そういうある日、伸子は庭の隅で一本の菊をいじっていた。泥鉢の、夜店の菊ではあったが、純白の花は十一月らしい芳香を放った。凋んだ花を鋏で剪っていると、路地に俥のベルが聞えた。伸子は板塀の切戸をあけて見た。祖母が俥から降りた。伸子は、

「おばあさま、こっち、こっち」

と手招きをした。そして、俥夫に云った。

「かえりはこちらでお送りするから、帰ってよろしい」

祖母は珍しそうに、

「ほう、こんなところに木戸があるのか」

と、見廻しながら、草履をふんで庭へ入った。

「今日は買物を少ししようかと思って出たが、はあ、俺にゃ分らないからやめにして、茶をよばれに来たごんだ」

伸子は笑った。祖母は、俥を命じさせるとき、きっと、伸子のところに来たいとは云わず、本郷通りへ呉服ものを見に行くからとでも云ったのだろう。