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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

その、せずとよい云いわけを、彼女は伸子のところに来てまで云うのだ。

「お茶ぐらいはいくらでもさし上げてよ。――きょうは一つ、菊見の真似でもしましょうか」

伸子は、縁側に、座蒲団や茶を出させた。

そして、祖母をかけさせ、自分もそばで、さも宏大な花壇でも眺めるふりをしながら、

「――さて、いい眺めじゃのう、見渡す限り千本白菊の真盛りだ」

祖母はおいしそうに深く煙草を吸い込み、さて吸殻をはたきながらくすくす笑ってからかった。

「……俺の眼がなじょになったか、菊は一本しか見えないごんだよ」

「――駄目よ、おばあさまったら。もっとあるつもりよ! もっとあるつもりよ!」

そばから、きよが、白い瀬戸ものの大きな義歯をがたつかせて、愛想笑いをした。

「奥様の面白いことをおっしゃいますこと、ほほほほ」

二言目には奥様奥様と呼ばれるたびに、伸子は、体のどこかを、鄭重に指の先で引っ張られるような、工合のわるい気がするのであった。祖母は上機嫌で、国技館の菊人形の噂をした。彼女は、やがて、足先が冷えると云って、家に上った。

「――俺も若い頃にゃあ、どんな女にもまけなかったが、こうなっては死ぬばかりだなあ――針のめど通すに縫うほどかかるごんだ」