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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「……今日は特別ね、……」

伸子は真正面から日を受けている顔を伏せるようにし、そばの老人を顧みた。

「――まあ、お髯の光ること」

老人は自分から胸元を見下し、指を拡げて裏から白髯を扱いた。長い白髯は春の光の中で、支那素麺のように清らかに輝いた。

「何でお洗いになりますの?」

「玉子の白味で洗えと云われてな、伸したては珍しいもんじゃで根よくやったが、私のように出歩きの好きな者はどむならん――髯も日に焼けます、すぐ又、しょむない色になってしまいおる。……」

……長閑だ。……伸子は、自分の祖父と日向ぼっこでもしているようないい気持であった。

襖をあけて佃が入って来た。

「一寸電話をかけて来ます」

「ほう」

「何か用はありませんか」

「さて――どうでわが身も、後でどこぞへ出んならんと思うとるさかいに……」

伸子は、佃の着こんだ厚い黒マントや、毛糸の襟巻を見て笑った。

「――あついことよ、それじゃ、外は」

「そんなことはありません。――じゃ一寸行って来ます」

日当りのよい部屋から来ると、暫くは物もよく見えない陰の四畳半で、伸子が洗濯物をしまっているところへ、佃が手間をとって戻って来た。